CFOとして数字と向き合っていると、時として「あまりにも正しすぎる論理」が、組織の生命力を削り取っている瞬間に立ち会うことがあります。
事業計画の未達、投資回収の遅れ、人員配置のミスマッチ。それらに対して、私たちが提示する「正解」は、短期的には組織を律するように見えます。
しかし、現場の感情や文脈を削ぎ落とした純粋な正論は、時に「毒」へと変質します。正しいはずの判断が、なぜか周囲の熱量を奪い、沈黙を招いてしまう。
その違和感こそが、私たちが観測すべき「不確実性」の正体です。
CFOが直面するのは、計算式では解けない「境界線」の葛藤です。
規律を守るために個を切り捨てるのか、それとも個を活かすために規律を再定義するのか。
その狭間で揺れることは、冷徹なマシーンではなく、一人の人間として組織の重みを背負っている証拠に他なりません。
違和感を可視化する診断マトリクス
今、あなたの目の前にある判断が、組織にとって「薬」なのか「毒」なのか。現状を評価せずに、まずはその性質をそのまま眺めてみましょう。
| 観測ポイント | A:効率と論理の優先度 | B:現場の文脈と熱量 |
| 判断の根拠 | 市場平均や過去実績に基づいている | 個別の事情や関係性に配慮している |
| 周囲の反応 | 納得はしているが、どこか諦めている | 期待はしているが、不安が残っている |
| 自身の感覚 | 義務感や焦燥感が強い | 迷いや痛みを感じている |
組織の状態認識チャート
以下の項目を確認し、現在の組織がどの領域に位置しているかを静かに観測してください。
⚫︎ 正論の浸透度
その判断を伝えた時、反論すら起きない「静かな諦め」がありますか?
状態: はい / いいえ
⚫︎ 境界線の曖昧さ
「ルールだから」という言葉で、個別の事情を思考停止で切り捨てていませんか?
状態: はい / いいえ
⚫︎ 心理的負荷の所在
その判断に伴う「痛み」を、自分一人が抱え込もうとしていませんか?
状態: はい / いいえ
⚫︎ 観測結果の記録
(例:数字は正しいが、現場のリーダーの目が死んでいるように見える)
内容:
規律を定義するための条件
ただ揺れているだけでは、組織は漂流してしまいます。観測した違和感を「構造」に変えるために、次のような基準を自分の中に置く準備を始めます。
⚫︎ 撤退のトリガー
感情的なサンクコストを排除し、数値がどのラインを下回った時に「NO」を突きつけるか
基準:
⚫︎ 対話の余白
効率を優先する会議の中で、あえて「数字にならない懸念」を吸い上げる時間を5分確保できるか
実行可否: 可能 / 困難
⚫︎ 責任の所在
その判断が失敗した際、システム(仕組み)の不備とするのか、個人の資質とするのか
定義:
再現性を生むためのステップ
観測したノイズを、個人の勘に頼らず、組織の知恵として循環させるための手順です。
- 違和感の棚卸し:週に一度、カレンダーを見返し、判断を保留した瞬間の感情を書き出す
- 規律の言語化:「なぜあの時NOと言ったのか」の裏側にある、独自の評価基準を3つ抽出する
- 物差しの共有:言語化した基準を、判断の「テンプレート」としてドキュメント化する
- 構造への委任:テンプレートに基づき、自分以外のメンバーが判断できる範囲を10%広げる
- フィードバックループ:仕組みによって下された判断の結果を、半年後に「観測」の工程へ戻す
不確実な霧の中に留まり続けることは、勇気のいる仕事です。しかし、その揺れの中にこそ、組織が次へ進むための本当の鍵が隠されています。
次は、この揺れを放置せず、具体的な判断の物差しとして定着させる「Define(判断に規律を宿す)」へと歩みを進めましょう。
正解のない問いに向き合う苦しみは、あなたが組織の未来に対して、真に誠実である証です。