「誰の判断を優先すればいいんだ」という静かな叫び
「経営陣は攻めろと言い、現場は守れと言う。株主は成長を求め、従業員は安定を望む。そして私は、その真ん中で数字を見つめている」
CFOの板挟みは、単なる「立場の問題」ではありません。それは、組織内に複数の異なる不確実性が同時に存在し、しかもそれぞれが相反する方向を指し示しているという、構造的な問題です。
攻めるべきか、守るべきか。投資すべきか、温存すべきか。リスクを取るべきか、回避すべきか。
この判断が難しいのは、あなたの能力や経験が足りないからではありません。そもそも「どの不確実性を優先して観測すべきか」という問いに、組織としての答えが定まっていないからです。
あなたの組織は、どの不確実性の板挟みにいるのか
CFOが直面する板挟みには、典型的な3つのパターンがあります。それぞれ、観測すべき不確実性の種類が異なります。
市場の霧と内部の綱渡りの板挟み
外部環境は不透明で、競合の動きも市場の反応も読めない。一方で、社内のリソースは限界まで使い切られており、一歩間違えれば資金繰りが逼迫する。
「新規事業に投資すべき」という経営陣の声と、「今ある事業の立て直しが先」という現場の声。どちらも正しく、どちらも切実です。
この状態では、外部の「市場の不確実性」と内部の「リソースの不確実性」という2つの異なる種類の不確実性が、同時にあなたに判断を迫っています。
成長の期待と安定の不安の板挟み
株主は「もっと成長を」と求め、従業員は「今の待遇を守ってほしい」と願う。経営陣は拡大路線を描き、現場は疲弊の色を隠せない。
この板挟みの本質は、「時間軸の不確実性」です。短期で結果を出すべきか、長期で基盤を固めるべきか。この問いは、観測する時間の窓をどこに設定するかという、CFOにしか扱えない判断です。
攻めの論理と守りの感情の板挟み
数字上は「今が投資のタイミング」と示されている。しかし、経営陣の一部は慎重論を唱え、現場からは不安の声が漏れ聞こえてくる。
ここでの板挟みは、「論理的な不確実性」と「心理的な不確実性」の対立です。データが示す確率と、人が感じる恐怖。どちらも無視できない現実であり、どちらも組織の意思決定を左右します。
不確実性を観測するとは、板挟みの構造を可視化すること
板挟みの苦しさは、「どちらかを選ばなければならない」という強制感から生まれます。しかし、本当に苦しいのは、その選択が「なぜこれほど難しいのか」を説明できないことではないでしょうか。
不確実性を観測するとは、この「なぜ」を構造として可視化することです。
あなたが直面している板挟みには、必ず「観測されていない不確実性の対立」があります。それは、市場の霧とリソースの綱渡りかもしれません。時間軸の短期と長期かもしれません。論理と感情の乖離かもしれません。
まず必要なのは、「どの不確実性が、どの方向を指し示しているのか」を組織として可視化することです。
経営陣が見ている不確実性は何か。現場が感じている不確実性は何か。株主が期待している不確実性は何か。そして、あなた自身が数字から読み取っている不確実性は何か。
これらを、それぞれ独立した「観測対象」として並べてみてください。すると、板挟みは「どちらかを選ぶ」という二者択一ではなく、「複数の不確実性をどう優先順位づけるか」という構造的な問いに変わります。
ここから先へ進むために
不確実性が可視化されると、次に必要なのは「どの不確実性を優先するか」という判断の規律です。
観測された不確実性に、組織としての境界線を引く。それが「判断に規律を宿す(Define)」というステップです。