「いつかCFOになれたら」と考えながら、何から始めればいいのか分からない。
財務や経理の仕事を続けていると、そんな揺れが出てくることがあります。
簿記1級を取るべきなのか。USCPAや公認会計士を目指すべきなのか。
それとも、資格より転職して経験を広げるべきなのか。
先に結論を言えば、CFOになるためのルートは一つではありません。
むしろ、ある程度の実務経験を積んでから考えたいのは、「CFOになるには何が必要か」という一般論より、自分には何がすでにあり、何が足りないのかを棚卸しすることです。
この記事では、CFOまでのキャリアを3つの経験層に分けて構造化します。
経理・財務の経験を積んできたあなたが、これまでのキャリアをどう捉え、次の12カ月をどう使うか。
その判断材料として読んでみてください。
CFOになるルートは一つではない
CFOには、「この資格を取ればなれる」「この部署を経験すればなれる」という一本道がありません。
そもそもCFOという肩書きが示す仕事の範囲は、会社によってかなり違います。
大企業であれば、経理・財務部門で管理職となり、部長、本部長、執行役員などを経てCFOへ進むルートが考えられます。
数年から10年以上かけて担当領域を広げながら、経営に近づいていく形です。
一方、スタートアップでは事情が変わります。
経理・財務だけでなく、資金調達、資本政策、投資家対応、IPO準備などを担える人材が、比較的早い段階でCFOやCFO候補として採用されるケースがあります。
さらに、公認会計士や投資銀行、コンサルティング会社などから事業会社へ移り、CFOを目指すルートもあります。
つまり、
「何年働いたか」ではなく、「どの経営課題を扱ってきたか」
という視点が重要になります。
同じように経理・財務の経験を積んできた人でも、これまで担当してきた仕事によって現在地は変わります。
ここを年齢や肩書きだけで判断すると、自分の市場価値を見誤る可能性があります。
CFOに求められる経験を3つの層で考える
CFOに必要な経験を考えるときは、仕事を3つの層に分けると整理しやすくなります。
第1層:会社のお金を正しく把握する
最初は、会社のお金の状態を正しく把握するための経験です。
たとえば、次のような業務があります。
- 月次・四半期・年次決算
- 資金繰り
- 債権・債務管理
- 税務対応
- 監査対応
- 管理会計
- 内部統制
経理や財務で一定の経験を積んでいる人であれば、この層にはかなりの経験があるかもしれません。
ただし、ここで一度確認したいことがあります。
「業務を担当したことがある」のか、「その業務について自分で判断したことがある」のかという違いです。
たとえば資金繰り表を毎月作成することと、資金不足を予測して金融機関との交渉方針を決めることでは、経験の質が違います。
CFOに近づくほど、求められるのは処理能力だけではなく、数字を使って判断する経験になっていくと考えられます。
第2層:未来のお金を設計する
次の層では、過去の数字を正しく集計するだけではなく、未来の数字を扱います。
たとえば、
- 予算策定
- 予実管理
- 中期経営計画
- 財務戦略
- 銀行との融資交渉
- 資金調達
- 投資判断
- 経営会議への参加
などです。
ここが、経理・財務の専門職とCFO候補との一つの境界線になりやすいでしょう。
たとえば「売上が予算を10%下回りました」と報告するだけなら、数字の集計が中心です。
そこから「この状態が6カ月続けば資金繰りはどうなるか」「採用計画を維持するのか」「追加融資を検討するのか」と考えるようになると、仕事は経営判断に近づきます。
CFOを目指すのであれば、自分がどれだけ正確に数字を作れるかだけでなく、その数字を使って何を判断してきたかを棚卸しする必要があります。
第3層:会社と資本市場をつなぐ
さらに上の層では、会社の内部だけではなく、株主、投資家、金融機関など外部との関係が増えてきます。
代表的なのは、
- 資本政策
- エクイティファイナンス
- M&A
- IR
- IPO
- 取締役会への報告
- 投資家とのコミュニケーション
などです。
たとえばIPOを目指す会社であれば、監査法人、証券会社、証券取引所など複数の外部関係者との調整が必要になります。
M&Aであれば、「会社はいくらなのか」「買収によって何が変わるのか」「どのリスクまで許容するのか」といった判断にも関わります。
ここまで来ると、会計知識だけでは処理しにくい問題が増えます。
正解が一つではない状態で、複数の選択肢を比較し、経営者と一緒に判断する仕事が増えていくからです。
CFOに必要なのは、すべてを自分で処理できる能力というより、判断すべき問題を構造化し、会社としてどこに境界線を引くかを考えられることなのかもしれません。
資格は「入場券」にはなっても「手形」ではない
では、CFOを目指すなら資格を取るべきでしょうか。
ここは、少し冷静に考えたいところです。
CFOという役職そのものに、公認会計士や税理士などの資格が必須というわけではありません。
資格は専門知識を体系的に身につけたことを示す材料になりますが、資格を取ればCFOになれるわけではありません。
たとえば日商簿記1級は、会計知識を深めたい人にとって有力な選択肢です。
日本商工会議所によると、2026年6月実施の1級試験は実受験者9,806人、合格者2,076人で、合格率は21.2%でした。
2025年の2回は14.0%、15.2%だったため、回によって合格率には揺れがあります。
USCPA(米国公認会計士)は、英文会計や国際的な会計・監査領域に関心がある人にとって選択肢になります。
AICPAが公表している2026年上半期の科目別累計合格率を見ると、FARは42.95%、AUDは48.65%、REGは66.78%となっています。
試験は科目ごとに合否判定されるため、これらの数字を「USCPA全体の合格率」と読むことはできません。
学習時間についても個人差があります。資格スクールの目安では、USCPAは約1,000〜1,500時間程度とされています。
簿記や実務、英語の習熟度によって必要時間は変わるため、あくまで概算として考えるべきでしょう。
公認会計士になると、さらに必要な時間は大きくなります。
資格スクールのTACでは、公認会計士試験の標準的な学習時間を3,500〜5,000時間以上としています。
これも受験者による差が大きく、資格取得に必要な時間を保証する数字ではありません。
ここで重要なのは、資格の難易度を比較することではありません。
1,000時間を資格取得に使うのか、実務経験を広げるために使うのか。
この問いです。
たとえば現在の会社で決算業務しか担当できないのであれば、1,000時間勉強することより、転職して予算管理や資金調達を経験するほうがCFOへの距離を縮める場合もあるでしょう。
逆に実務経験は十分でも、会計やファイナンスの体系的な知識に不安があるのであれば、資格の勉強が経験を整理する役割を果たすかもしれません。
資格を取るかどうかも、「CFOになるために必要だから」ではなく、自分に欠けているものを埋めるために必要かで判断したほうが正気を保ちやすいと思います。
経理・財務の経験を積んできた人は、今何を見るべきか
ある程度の経理・財務経験を積み、次のキャリアとしてCFOを意識し始めたとします。
最初にやることは、求人サイトを開くことでも資格学校へ申し込むことでもありません。
まずは、これまでの経験を棚卸ししてみます。
先ほどの3つの層に、自分の経験を書き込んでみてください。
| 経験層 | 主な領域 | 自分の経験 |
|---|---|---|
| 第1層 | 決算・資金繰り・税務・監査・内部統制 | ○/△/× |
| 第2層 | 予算・財務戦略・融資・資金調達・経営会議 | ○/△/× |
| 第3層 | 資本政策・M&A・IR・IPO・投資家対応 | ○/△/× |
○は「自分で判断できる」、△は「関わったことがある」、×は「経験がない」くらいで十分です。
ここで大切なのは、○の数を増やすことではありません。
どこに経験が偏っているかを見ることです。
たとえば第1層に○が並び、第2層と第3層がほぼ×なのであれば、資格を増やすより、経営企画、FP&A、財務戦略、資金調達などに仕事を広げるほうが優先順位は高いかもしれません。
反対に、第2層まで経験しているものの、会計やファイナンスの理論を体系的に説明することに不安があるなら、資格学習を使って知識を構造化する意味が出てきます。
「CFOになるために何をすればいいか」ではなく、
「自分の3層のうち、どこが薄いか」
と問い直すだけで、次にやることはかなり変わります。
次の12カ月で何を積むか
キャリアを考えるとき、5年後や10年後だけを考えると、計画が大きくなりすぎます。
まず12カ月で考えてみます。
たとえば第2層が不足しているのであれば、次の12カ月で「予算策定を担当する」「金融機関との交渉に同席する」「経営会議向け資料を作る」といった経験を一つ増やす方法があります。
第3層が不足しているなら、資金調達、M&A、IR、IPO準備などに関われる会社へ転職することも選択肢になるでしょう。
ここで、肩書きと経験が衝突することがあります。
現在の会社で「財務部長」になれる可能性がある一方、転職すれば「財務マネージャー」に肩書きが下がる。
しかし転職先では資金調達やIPOを経験できる。
どちらが正しいとは一概に言えません。
ただ、CFOを目指しているのであれば、次の肩書きではなく、3年後に自分の経験層がどう変わるかを見る価値があります。
CFOへの転職では「肩書き」より経験を買う
転職エージェントから「CFO候補」という求人を紹介されると、肩書きに目が向きます。
年収が上がる。現在の役職からCFO候補になる。
魅力的に見えるでしょう。
ただし、ここでも肩書きをいったん外してみます。
確認したいのは、
- 何人の組織を管理するのか
- 経営会議に参加できるのか
- 予算策定を主導できるのか
- 銀行との交渉を担当できるのか
- 資金調達に関われるのか
- 資本政策に関われるのか
- M&AやIPOの可能性があるのか
- CEOや取締役会とどの距離で仕事をするのか
という仕事の中身です。
「CFO候補」という肩書きでも、実態が経理部長に近い求人はあるでしょう。
反対に「財務部長」「経営企画部長」という肩書きでも、CFOにつながる経験を多く積める会社はあると考えられます。
転職で買っているのは肩書きだけではありません。
次の3年間で経験できる仕事そのものを買っていると考えると、求人票の見え方が変わります。
年収についても同じです。
CFOの年収は企業規模や役割、専門性によって大きく変わります。
転職を考えるのであれば、現在の提示年収だけではなく、自分の経験が3年後にどの程度の市場価値につながるかも見ておきたいところです。
CFOの年収と市場価値については、関連記事の「CFOの年収はいくら?──企業規模・年齢別の実態と、年収を決める4つの要素」で詳しく整理しています。
CFOになる方法より、自分の現在地を知る
CFOになるルートに、唯一の正解はありません。
大企業で昇進する人もいれば、スタートアップへ転職する人もいます。
経理・財務から進む人もいれば、公認会計士、金融、コンサルティングなど別の領域から入る人もいます。
だからこそ、「CFOになるには何をすればいいですか」という問いだけでは、答えを出しにくいのだと思います。
まず、自分の経験を3つの層に分けてみてください。
第1層:会社のお金を正しく把握する。
第2層:未来のお金を設計する。
第3層:会社と資本市場をつなぐ。
そのうえで、○・△・×をつけてみます。
資格を取るのか。今の会社に残るのか。転職するのか。
その判断は、棚卸しをしてからでも遅くありません。
CFOを目指すキャリアでは、「何の資格を持っているか」だけではなく、「どんな判断をしてきたか」が問われる場面が増えていくでしょう。
そして転職活動では、それをどう言葉にするかも重要になります。
CFO候補の面接で何を聞かれるのか、管理職としてどの経験を説明すべきなのかについても、今後このサイトで整理していきます。
答えを急ぐ前に、まず現在地を構造化する。
そこから次の12カ月を決めるくらいが、キャリアを考えるときのちょうどいい余白なのだと思います。
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